フィリップ・K・ディックのアンドロイドは電気羊の夢を見るか?はかなり難解な小説です。
この記事では重要な点や疑問点を解説していきます。
完全にネタバレなので今から読む方はご注意ください。
タイトルの意味は最後に考察しています。
こちらの記事を先に読むと理解しやすいと思います。
難しいSF「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の用語解説集
アンドロイドと電気羊の類似
56pに記述があります。
アンドロイドと電気羊は感情移入能力を持たないという点で類似しています。
アンドロイドは模造動物のひとつといえます。
ただし、電気羊は機械ですが、アンドロイドは生体という点では違います。(259p)
動物食の倫理観について
作品世界では同情心を養う、またそのことを対外的にアピールするために動物を飼うことが社会通念になっています。
食べ物の描写が途中まで出てこないため、人類みんながヴィーガンなんだろうか?と思いますが、
読みすすめるとマーガリンが出てきます。そのため少なくともヴィーガンではありません。
肉食の描写はないため、ベジタリアンの可能性はあります。
スペシャルとピンボケの混同
68-69pp、スペシャル(被爆者)とピンボケ&精神疾患患者が混同されているように読めます。
スペシャルになるということは基本的に脳機能にも障害が生じるということだと推測できます。
ローゼン協会との騙し合い
74p
フォークトカンプフ検査が不完全なことが明るみになると不都合なのは、
それにより人間を誤殺した可能性が出てくる上、アンドロイドを殺す仕事ができなくなる警察も、
アンドロイドを売れなくなるローゼン協会も同じだから、
取引しようという内容です。
屋上
ホバーカーが交通手段のため、屋上がたくさん出てきます。
屋上が駐車場なのです。
現実でもそうなったら面白いですね。
レイチェルが黒山羊を殺したのはなぜ?
アンドロイドがそうするのに大した理由などないと解釈しました。
プリスがクモの足を切ったように。
結局どういう話なの?
リックは、この小説の中で、特に後半になるにつれ、非常に迷います。
気に入っていたはずのバウンティハンターの仕事をやめようとしたり、かと思えば続けることに決めたり。
アンドロイドと寝て殺そうとしたと思ったらやめたり、挙句の果てに自殺しようとしたりと。
エンディングは、
自殺しようとしたらマーサーと融合し、
来た道を引き返すと絶滅したはずのカエルをみつけた…
と思ったら偽物だった、で終わりです。
一貫性がないということが一貫しています。
アンドロイドは感情移入しない残酷な存在ですが、
人間たちはというと、
リックもイーランもイジドアもアンドロイドに同情、感情移入しています。
アンドロイドを殺すのが仕事のリックですら迷っています。
それでもアンドロイドに感情移入能力はないのです。
もしこれから作中のようなアンドロイドが出てきたとしても、アンドロイドに感情移入してはいけないという警告と解釈しました。
作中でも、「アンドロイドに同情しないこと」が人類を守る防壁になる、という描写があります。(184p)
なお、アンドロイドの人権問題について問うている、とは思いませんでした。
問うているというより、迷うのが人間だ、ということを言っているように思えます。
訳者あとがきでの答え合わせ
328p
あるディック評論家の引用によると、
ディックが描こうとしたのは全ての存在における人間性とアンドロイド性の相剋である、
だそうです。
つまりリックが迷っている姿がそれそのものということでしょう。
アンドロイドを殺すのがいいか悪いかではなく、
そんなことはどうでもよく、
マーサーの言うように間違ったことでも時にはしなくてはいけなくて、
ひとの親切さというものの尊さを思え、という。
タイトルの意味
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
電気羊は感情移入能力があることをアピールするための模造品です。
その夢を見る、つまり電気羊を所有したいと思う、そんなことがアンドロイドにあるのか?
つまり、
偽物とはいえアンドロイドは感情移入をしようとするのかどうか、と読み替えられます。
感情移入をしようとするのは、アンドロイドではありません。
アンドロイドは電気羊の夢を見ません。
見るならばそれは真の意味でのアンドロイドではありません。
これから現実世界でAIやアンドロイドがつくられていったとしても、
大事なのはそれが機械でできてるか生体なのか、そんなことではなく、
感情移入能力だということです。
マーサー教は偽物の三流映画だったことがアンドロイド達によって暴かれますが、
依然として本物なのです。
コメント