「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の用語解説集

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ブレードランナーの原作である、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」。
フィリップ・K・ディックによる珠玉のSFです。

この作品には様々な用語が出てくるので、
それぞれ意味をまとめました。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?は少し読むのが難しいので、
この記事で予習することで読みやすくすることができます。

ムードオルガン(情調オルガン)

脳にサージ電流を送ることで、抑うつや爽快感など、あらゆる情動を与えることのできる装置です。
仕事に行きたくなくてもこの装置を使えばその意欲を無理やり出すことができます。
ダイヤルしたくないときはダイヤルしたい気分にすることすらできます。
ディストピアっぽいですね。
ペンフィールド社製です。

コドピース(股袋)

この作品の世界では第三次世界大戦が起きており、
その結果、地球全体が放射能灰に汚染されています。
出かけるときは放射線から身を守るために、防護をしなくてはなりません。
コドピースは男性のズボンの前面につける防護です。
鉛でできています。
なぜズボンにつけるかというと、生殖能力を保護するためでしょう。

とはいえ、防護能力は完璧ではなく、地球に残っている限りは汚染が蓄積されていきます。

電気羊(Electric Sheep)

放射能灰に汚されたこの作品の地球では、生きている動物を保有することがステータスとなっています。
生きている動物は高価なため、廉価版として機械仕掛けの動物も売られています。
そのひとつが電気羊です。

電気動物は、見た目には本物の動物に見え、羊なら草を食むこともします。
他人のもっている電気動物が本物かどうか聞くことは、
年収を聞くことと同じようにとても無礼なこととされています。

また、動物を飼わない人間は不道徳で同情心がないという偏見で見られるため、
電気動物はなくてはならない存在になっています。

レギュラー(適格者)/スペシャル(特殊者)

被爆の程度によって、法律上生殖を許可されているのがレギュラー、
そうでないのがスペシャルです。
スペシャルはマル特と蔑まれ、永遠に落伍者としての扱いを受けることになります。
また植民惑星への移住もできません。

第三次世界大戦

なぜ起こったのか、どっちが勝ったのか、もう誰も覚えていない昔にあった戦争です。
この戦争により、地球は放射能灰で汚染され、
多くの人々が死ぬか、植民惑星へと移住しました。
地球に残っているのは一握りの人々です。

国連は人々を植民惑星に移住させるため、
移住を選んだ人には無料でコンパニオンとなるアンドロイドを貸与する制度を用意しています。

ニュー・アメリカ

火星で最大の合衆国植民地です。

ピンボケ

精神機能テストの基準を満たさなかった人々です。
マル特と同じように蔑まれています。
彼らの一部はアメリカ特殊職業技能養成所で養われています。

マーサー教

作品世界(地球でも植民惑星でも)で信仰されている宗教です。
ウィルバー・マーサーとの真の融合を是としています。

マーサーは荒野の坂を登り続けており、(<登坂>と呼ばれます)
それは確かな進歩として捉えられています。
登坂は長く苦しいもので、見えない「敵」から石を投げつけられます。
また、頂上まで登ったとしても、また別の坂登りが始まります。

マーサーは死んだ動物を能力を持った子供でした。
その能力のために逮捕され、脳を放射性コバルトで叩かれて能力を奪われます。
墓穴世界と呼ばれる場所に閉じ込められ、長い時間を過ごします。
そして気がつくと墓穴世界での再生が始まり、坂を登り始めていました。

シーシュポスの神話から着想を得ているように思います。(筆者の意見です)

エンパシーボックス(共感ボックス)

ブラウン管などから出来た、マーサー教のために使われる機械です。
2つの取っ手を握ると、マーサーが荒野を進んでいく風景が見え、
次第に使用者の意識と肉体はマーサーと同化します。
同じ瞬間にエンパシーボックスを使っている他者の意識とも間接的に同一化します。

エンパシーボックスでの体験の中で石を投げられると、
現実世界でも実際にけがをします。
高齢者はエンパシーボックスの体験により死んでしまうこともあります。

映話

電話の映像版、つまりテレビ電話です。

ローゼン協会

ネクサス6型脳ユニットをもつ、最新式のアンドロイドを製造している会社です。
合衆国とソ連と火星とにまたがっており、合衆国の支部はシアトルにあります。
太陽系の全産業における要とみなされる超巨大企業です。

脱走アンドロイドの取締をしている警察組織の多くが、ネクサス6型に対して抗議しています。
高性能すぎて人間と見分けがつきにくいからです。

レイチェル・ローゼンは主人公リック・デッカードと違い、アンドロイドをただの無生物とは考えていないようです。

フォークト=カンプフ感情移入度検査法

ソ連のパヴロフ研究所によって開発された、感情移入能力を測るテストです。
検査の際にはポリグラフを使用します。
アンドロイドには主人を殺して脱走するものがあり、そのようなアンドロイドを見つけ出すために活用されています。
ズーデルマン社のT14型アンドロイドは、どれもこの検査にパスできませんでした。

感情移入は、同一化を主軸とするマーサー教と深い関わりがあります。
この検査にパスできないということは、マーサー教の融合を理解できていないことを表します。

主人公リックは、感情移入という能力を、肉食をしなくても生きていける動物に限られたものだと考えています。
そして感情移入の能力をもたないアンドロイドを、独居性の捕食者としてとらえています。

ただ、この検査でアンドロイドを完璧に見分けることができるわけではありません。
スキゾイドやスキゾフレニア(統合失調症)の人々には感情移入能力の減退がみられるため、
この検査にパスできない人間も少数存在すると考えられています。
そのような人々は普通、施設に収容されていますが、最近発病してまだ誰も気付いていない場合、
脱走アンドロイドだと誤解されて殺されてしまう可能性があります。

また、ローゼン協会のネクサス6型はこの検査で鑑別できるかが不確かです。
(ローゼン協会は一般的な検査で鑑別可能だと保証していますが…)

(ネタバレ)
物語の中で、フォークト=カンプフ検査は不完全であったことが明らかになります。
アンドロイドを人間だと誤認するならまだしも、その逆、
感情移入能力の低い人間をアンドロイドだと誤認してしまうものでした。

…というのはローゼン協会の罠で、被験者はやはりアンドロイドでした。

キップル

SF用語というよりは、現実にも適用することのできる、ディックの独自の概念です。
昨日の新聞や廃墟など、役に立たないものの総称で、
キップルはキップルでないものを駆逐する、つまり放っておくとどんどん増えます。
人間が住んでいる間はキップル化を押し止めることができますが、
いなくなると、キップルで埋め尽くされます。
宇宙全体がキップル化する方向へと進んでいます。

この作品では戦争で世界人口が減少したため、人の手の入らないもの(キップル)が増えているということだと思います。

ただし、マーサーの登板だけは宇宙全体のキップル化から逃れられていると考えられています。

無指向性ペンフィールド波発生機

警察が脱走アンドロイドと戦うための武器のひとつです。
カタレプシーのキーを押すと、その名の通り無指向(あらゆる方向に)筋硬直を引き起こす波が発せられます。
操作する者は、効果を打ち消す逆性の波によって保護されます。

ボネリ反射弧テスト

フォークト=カンプフ検査と同じく、人間とアンドロイドを見分けるための試験です。
音声か閃光の刺激を与え、被験者はボタンを押し、その反応速度を測ります。
アンドロイドは人間より反応が少しだけ遅れます。

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